文芸
芥川龍之介原作の小説薮の中を世界の黒澤明が映画化した作品です。この映画はヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を獲得し、黒澤明の名を世界に知らしめるきっかけともなりました。黒澤明というと、影武者や七人の侍といった時代劇が有名ですが、ぼく個人はどちらかというとこの羅生門や生きるといったシリアスなドラマの方が好きです。
この映画はタイトルが地味なせいか、最近では余り多くの人に観られていないようですが、脚本がとても緻密な計算と人間観察力によって作られていますので、見終わった後には重厚な文学作品を読了したかのような圧倒的な気分にさせられます。特にこの映画でひときわ目につくのが、対立する複数の視点から同じ出来事を全く違ったように回想し、真実がどうだったのか観客を混乱させてしまうという手法ですが、これは今でも観ていてとても新鮮で、よくこんな昔にこんな手法が思い付いたものだと心から感心してしまいました。恐らくこのような映画は、他の監督が作ろうとしてもそう簡単に作れるものではないだろうと思います。かつての日本映画界には、本当に優秀な人材がいたのだなとつくづく実感させられました。
最近の映画はとかく表面だけは立派で華々しく、中身の薄っぺらなものが多いように見受けられますが、この羅生門はタイトルこそ地味ながら、内容の濃い味わい深い作品に仕上がっています。芥川龍之介としても、自分の書いた小説をここまで見事な映画にしてもらえば本望ではないでしょうか。
未だに黒澤明の人気は衰えていないので、レンタルショップに行けば、この羅生門も他の黒沢作品に並んできちんと陳列されてあります。文学に興味のある人もない人も、内容の濃い深い映画を観たいという向きにはぜひともお勧めしたい一本です。

