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文芸

芥川龍之介原作の小説薮の中を世界の黒澤明が映画化した作品です。この映画はヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を獲得し、黒澤明の名を世界に知らしめるきっかけともなりました。黒澤明というと、影武者七人の侍といった時代劇が有名ですが、ぼく個人はどちらかというとこの羅生門生きるといったシリアスなドラマの方が好きです。

この映画はタイトルが地味なせいか、最近では余り多くの人に観られていないようですが、脚本がとても緻密な計算と人間観察力によって作られていますので、見終わった後には重厚な文学作品を読了したかのような圧倒的な気分にさせられます。特にこの映画でひときわ目につくのが、対立する複数の視点から同じ出来事を全く違ったように回想し、真実がどうだったのか観客を混乱させてしまうという手法ですが、これは今でも観ていてとても新鮮で、よくこんな昔にこんな手法が思い付いたものだと心から感心してしまいました。恐らくこのような映画は、他の監督が作ろうとしてもそう簡単に作れるものではないだろうと思います。かつての日本映画界には、本当に優秀な人材がいたのだなとつくづく実感させられました。

最近の映画はとかく表面だけは立派で華々しく、中身の薄っぺらなものが多いように見受けられますが、この羅生門はタイトルこそ地味ながら、内容の濃い味わい深い作品に仕上がっています。芥川龍之介としても、自分の書いた小説をここまで見事な映画にしてもらえば本望ではないでしょうか。

未だに黒澤明の人気は衰えていないので、レンタルショップに行けば、この羅生門も他の黒沢作品に並んできちんと陳列されてあります。文学に興味のある人もない人も、内容の濃い深い映画を観たいという向きにはぜひともお勧めしたい一本です。

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羅生門 デラックス版


少し地味な作品ですが、溝口健二監督の山椒大夫という映画を紹介します。これは森鴎外の同名の小説山椒大夫を映画化した作品なのですが、この映画は原作を遙かに凌ぐ素晴らしい作品になっていると思います。普通、文豪の書いた小説を映画化したとしても、映画が小説の良さを追い抜くということはほとんどあり得ないのですが、この映画は原作よりも数倍面白く感動的に、かつ芸術的な作品になっていると思います。

溝口健二というと、黒澤明小津安二郎などと並び称される日本映画の巨匠ですが、彼らに比べて溝口健二の名前は世間では余り知られていないように見受けられます。ぼくは黒澤明小津安二郎よりも溝口健二の方がずっと好きなので、とても残念でなりません。なぜ彼の作品がそんなに好きなのかというと、やはり先ずはその映像の美しさでしょう。彼の生み出す映像は、白黒でありながらも色彩が浮き出てくるかのように繊細で鮮やかで、まるで精密に描かれた彩墨画を観ているような感すらあります。単に映像が美しいというだけではなく、話の筋もとても面白い。黒澤明ほど娯楽性があるわけではないのですが、小津安二郎のように退屈することなく一定の緊張感を保ちながら観られる映画だとぼくは思います。

ここ数年間、日本映画はずっと下火の状態が続き、ぼくたち日本人は日本映画に対する誇りを失った状態が長く続きましたが、この山椒大夫を観たときには、過去の日本には実はこんなに凄い映画監督がいたのかと唸らされたものでした。文芸大作というと少し堅苦しいイメージがあるかも知れませんが、この映画にはそんな堅苦しさはなく、娯楽としても十分に楽しめる映画になっていますし、そして何よりも心から感動できる映画になっています。ぼくが映画を観る際には、なかなか登場人物に感情移入することができず、どこか映画を客観的に観てしまうところがあるのですが、この映画を観ているときだけは、いつの間にか主人公に感情移入していて、今でも映画の内容を思い出すたびに胸がじんと熱くなってしまうぐらいです。

溝口健二の作品にはこれ以外にも沢山の優れた作品があるのですが、ぜひともこの作品を登竜門にして数々の過去の優れた日本映画の名作に触れてほしいものだと思います。

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溝口健二 大映作品集Vol.1 1951-1954